「パディントン 消えた黄金郷の秘密」では、かわいいクマのパディントンがエル・ドラドを求めてアマゾン川をボートで下っていきました。なんとこの「アギーレ/神の怒り」でも、アマゾンの川下りが観られるんですよ。
同じくエル・ドラドを探して。こちらは筏ですけどね。
本日は狂気に満ちたスペイン人コンキスタドールの冒険(?)にお付き合いくださいませ。
映画「アギーレ/神の怒り」のあらすじ
映画.comさんより
ニュー・ジャーマン・シネマの鬼才ベルナー・ヘルツォーク監督が、16世紀にアマゾン奥地の黄金郷を目指したスペイン探検隊の壮絶な運命を描いた傑作アドベンチャー。1560年、スペインの探検隊は伝説の黄金郷エルドラドを目指し、アンデス山脈最後の峠を越えようとしていた。周辺の様子を探るため分遣隊を送ることになり、隊長ウルスアや副長アギーレとその娘ら数十名が出発する。しかし厳しい自然や熱病、先住民の襲撃によって隊員たちは次々と命を落とし、分遣隊は内部崩壊してしまう。隊を掌握したアギーレは、狂気の赴くままにジャングルを突き進んでいくが……。クラウス・キンスキーがアギーレを熱演。
アギーレ 神の怒り : 作品情報・キャスト・あらすじ - 映画.com
1972年制作の映画。時間は91分だそう。実際にはもっと長く感じたのですが、こんなものなんですね。
映画「アギーレ/神の怒り」の感想
舞台は16世紀の南米。新大陸にやってきたスペイン人たちは、北米でアステカ帝国を、南米でインカ帝国を征服し、さらなる黄金の国を求めて探検に出ました。
主人公のアギーレもその一人。隊長ウルスアの指揮のもと、ジャングルを歩き、アマゾン川を筏で下るのですが……。
まず圧巻は冒頭の場面。レビューの多くに書かれていますが、ここはもう、控えめに申し上げて狂気。切り立った崖の、人ひとりしか通れない狭い急な道を、大勢の人が下りていくのです。最初、遠景で撮られているのですが、これを観ただけでずっしり気持ちが重くなりました。
やがてカメラが寄ってきて、馬、鎧を着こんだ白人たち、鎖につながれ、重い荷物を運ばされている先住民たち、黒人、輿に揺られるドレス姿の女性たちを映します。もちろん、輿を担いでいるのは先住民。
アマゾン川まで下りてきて、筏を作って下流を目指しますが、その間も苦難、苦難の連続です。濁流にのまれて筏が動けなくなったり(悲劇が起きます)、先住民の弓矢におびえたり、食料が尽きたり。
隊長は引き返すことを提案しますが、アギーレが反発。隊長を害し、貴族の男を傀儡の王として黄金卿探索の旅を続けようとします。
この映画ね、現代のものに比べるとお話がシンプルなんですよ。伏線もなく、憎悪や狂気はあるものの、わかりやすい説明はない。ですので退屈、何が面白いのかわからないという感想には、私は共感できるんです。私もしんどかった。
うんざりしてくるんです。虫の羽音さえ聞こえてきそうな密林、湿度、茶色く濁ったアマゾンの水にずっとずぶぬれの不快感、そうしたものが伝わってきてげんなりする。さらにアギーレ、こいつは自分のことしか考えてないんです。先住民を人間扱いしない、いやそれどころか同じスペイン人のことさえも、反対する者には容赦がない。
ただただ狂気の思考と行動を見せつけられた。そんな印象です。しかもその欲に狂った人間は、アマゾンの大自然の前でみじめなほどにほどちっぽけで、ついには消えていくんですよ。唖然としたむなしさしか残らない。
そもそもね、アマゾンを下った先に黄金卿などないことは、現代人である我々はとっくに知っているのです。しかしアギーレは、アステカを征服したコルテスや、インカの富を手にしたピサロのように、自分も黄金を手にして一旗揚げることを夢に見ている。愚かの極みとしかいえません。
しかし、この時代にはそうした人が少なくなかった。彼らのうち、コルテスやピサロの名前は歴史に残りましたが、名も知られないまま消えていったコンキスタドールもたくさんいたのでしょう。そして、そんなつまらない欲望に巻き込まれた先住民もたくさん。
歴史の無常のようなものも感じさせられる作品でした。
実在の「アギーレ」
本作の主人公アギーレには、モデルになった実在の人物がいます。ロペ・デ・アギーレというその人は、スペインのバスク地方の出身だとか。新大陸に渡ってからはペルーの内戦に巻き込まれ、反逆者として追われたのちに、アマゾンの探検隊に加わります。
彼について、中公新書の「物語ラテン・アメリカの歴史」に面白い記述がありますので、一節を引用してみましょう。
アマゾン川を下っていく最中に、アギレは途方もないことを考え始めた。ペルーでは多くの不正がおこなわれ、自分たちはその犠牲者である。そこでグスマンをペルー王に推し、スペインから独立すべきである。
本国からの独立なんて、当時考える人はめったにいないわけです。当然反対者も出ましたが、アギーレは粛清。残った仲間とアマゾンを下り、大西洋に出たアギーレは、武器を手に入れ味方を増やし、ペルーへ攻め込むことを計画します。
最後は討伐されてしまいますが、ロペ・デ・アギーレは「南米で初めてスペインからの独立を試みた者」との評価もされているとのこと。後世には彼を主人公にした歴史小説も書かれたといいます。
まとめ
このブログの記事「ラテンアメリカを好きになったきっかけ」にも書きましたが、私はもともとインカ帝国の最後をテーマにした児童文学を読んで、ラテンアメリカ界隈に迷い込んだのです。
ですのでスペイン人コンキスタドールというと、そりゃもう悪!ダメ! 許せない! だったのですが、最近は少し考えも変わってきました。彼らも何も知らないままに全く未知の大陸にやってきて、いろいろ苦労もしたろうなあ、という感情が生まれてきたのです。
苦労もしたろうなあ、じゃあ来なければいいじゃん。それが大前提としてありますけどね。
最後に、少しですが資料など載せておきます。ご興味を持たれた方はぜひ。
ベネズエラの作家、オテロ・シルバによる歴史小説「自由の王ーローペ・デ・アギーレ」
「予告された殺人の記録」など、ラテンアメリカ文学の翻訳を多く手掛けておられる野谷文昭先生の論文。本作「アギーレ/神の怒り」についても触れていらっしゃいます。
http://file:///C:/Users/user/Downloads/reny003006%20(1).pdf


