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【祈!アニメ化】大嶽洋子「黒森物語」のあらすじと感想

大嶽洋子「黒森物語」

 

山うばの髪は不思議な色のもやに変わった。もやに包まれた村は、どこか調子がおかしい。紐解きのおばあが解いた古い言い伝えによると、村を救うには「母なし息子と口なし娘」が黒森を行き、山うばの櫛を穴に投げなくてはいけないという。

 

黒森に消えた母を持つ少年りゅうと、病で言葉を失った少女たみ、山うばの髪を切った床屋の赤次が、不思議に満ちた黒森を旅する。

 

子供の頃に読んだ、大好きな児童文学です。

 

 

「黒森物語」の感想:その1

大好きすぎるお話なので、感想がちょっと重めです。その1では総評を。

 

「黒森物語」の魅力はたくさんありますが、私がもっとも強く惹かれるのはその世界観です。

 

主人公ふたりの名前はりゅうとたみ。油紙、火鉢、餅、味噌といった言葉が出てくるので、舞台は昔の日本といったところでしょう。

しかしその、どこか懐かしさを覚える世界には、山うばがいて、紐解きをなりわいとするおばあがいる。足を踏み入れると二度と戻れない禁忌の森がある……。

 

不思議なんですよね。現実と地続きのようでいて、そうではない。

 

また、この物語にはいわゆる「能力者」はいません。ピンチになっても覚醒することもありません。それではさぞかしつらい旅になると思いきや、床屋の赤次の関西弁が深刻なムードをぶち壊す。

 

気負いがない。感じられない。

 

リアリティがあるのにファンタジックで、どこか奇妙な世界観をそのまま丸ごと提示されて、すんなり溶け込めるのがこの作品の一番の魅力であるように思います。

 

カラスのイラスト

 

「黒森物語」の感想:その2

その2ではさらに深く詳しくマニアックに(?)、この物語の魅力を分析していきます。気持ちが悪い方はこちらでブラウザバックを……。(お手数をおかけします)

 

1、「黒森物語」のキャラクターの魅力

猟師の息子であるりゅうは、口数は少ないものの、責任感のあるやさしい少年です。

今の時代にはそぐわないかもしれませんが、男である自分がしっかりせねばと、己を叱咤し、ケガをしたたみをかばいながら旅を続ける様子にはぐっとくるものがあります。

 

たみは幼い頃に熱病を患い、口をきくことができなくなりました。旅の途中は無言ですが、芯が強く、賢い娘であることがよく描写されています。

 

そして赤次。赤次はいわゆる昼行燈の、「ハイ、これみんなが好きなキャラ」

 

片足が不自由で、普段は子供相手にもへらへら笑って世辞など口にする男ですが、ある夜、村に手負いのイノシシが迷い込んだとき……。

 

山の知識も豊富でサバイバルのスキルも持っている。子供たちの困難な旅を助けてくれる理想的な保護者でありながら、滑稽な関西弁で物語に深みを持たせてくれるキャラクターでもあります。

 

絶対みんな好きだよね?!

 

2、「黒森物語」の描写が素敵すぎる

闇の一族。桜の森の大蛇。水のない川の洗濯女。生き物を養分にする大木。かくれ谷。旅のはじめには、人情味あふれる人さらいの家族にも出会います。

口は悪いが情けは深い少女のたみへの思いやり、これもいいんですよ。

 

また、食べ物の描写もすばらしくて、読んでいるだけでお腹が鳴りそう。

 

干した川魚を、これも干したあんずの実と煮たもの、小さい沢ガニを香ばしく焼いたもの、水草の球根らしいもの、細い白うり、はすに何かの肉をつめて揚げたもの

 

これらは、かくれ谷の住人がりゅうとたみにふるまってくれた料理なのですが……。

 

食べ物はどれも、体の中にしみとおっていくほどのおいしさです。


そうでしょうとも!

 

赤次が作る、ザ・猟師飯も素敵です。布で包んで炊くご飯、食べてみたいなあ。

 

3、「黒森物語」にみる再生と逃避

りゅうの母は、子供を失った悲しみに心を狂わせ、黒森へ入ったきり帰ることがありませんでした。心ない村人から「お前の母は鬼になった」と言われて、りゅうは葛藤します。

母は本当に鬼になったのか、蛇になったのか。この目で確かめたい。

 

りゅうは、村を救うという使命を負って禁忌の森、黒森へ入るのですが、同時に、長年抱いていた疑念を晴らしたいという「課題」も持っているわけです。

 

たみは言葉を取り戻したい。赤次は過去にけじめをつけたい。

それぞれがそれぞれの課題を持って旅をはじめ、見事乗り越えて黒森を去ります。

 

……帰りの道の黒森の豊かなこと。

 

花が咲き、果実が実り、川には豊かな水が戻る。ふたりは懐かしい人との再会も果たします。

 

再生の物語として幕を下ろすかのように見えるのですが、しかし。再生を果たせない者もいました。りゅうの母が黒森を出ることはありません。

 

黒森は、現世のつらさに耐えかねた心弱き者たちの森です。言ってみればアジールのような役割を果たす場なのでしょう。

物語は、弱き者を世間に戻すことはしませんでした。彼らは黒森でしか生きていけないからです。

 

まとめ

初めて読んだのは小学生のときでした。文庫本ではなく、福音館の土曜日文庫、ソフトカバーの単行本で、タイトルも「黒森へ」というものです。

 

あれから何十年も経って、絶版になっていたものを古書で手に入れ、読み返しましたが、面白いですね!

 

さて、文庫の版を変えたものの、紙では未だ絶版のようですが、電子版が復刻しているようです。

 

読んで!

 

あと、アニメ化もお願いしたいんですよね~。絶対面白いと思いますよ。赤次と〇〇〇なんて、絵になりすぎてコワイですやん!

 

ぜひぜひよろしくお願いします。

 

 

 

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