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「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」のあらすじと感想

国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源(上)

 

これ系の「なぜ〇〇なのか」というタイトルを見ると、「知らんがな」とツッコミたくなりますよね? なりませんか? そうですか……。

 

それはさておき、本のご紹介を。

 

2024年、ノーベル経済学賞を受賞したダロン・アセモグル、ジェームズ・ロビンソンの共著。世界中にある格差と貧困の原因を考えたもの。

 

格差について書いた本では、ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」がありますが、こちらがその原因を地理的環境にあると説いたのに対し、本書では経済制度と政治が問題なのだ、と述べています。

 

 

「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」の内容

メキシコとアメリカの国境にノガレスという街がある。街はふたつの国に分かれていて、南側がメキシコ、北側がアメリカだ。

 

アメリカ側は豊かであるのに対して、メキシコの側は景気も治安も悪い。地理的条件もそこで暮らす人種も同じ。その差は両国の政治制度にあるとわかる。

 

ではなぜ、両国には経済的な格差があるのか。歴史をふり返ってみよう。

 

メキシコを含む中南米には、西洋人が来る前にはすでに中央集権国家が成り立っていた。先住民の数も多く、しかも彼らは街に集まって暮らしていた。一方で北米では帝国は築かれず、少ない先住民はそれぞれが別々の場所に住んでいた。

 

メキシコに入ったスペイン人は、先住民が作った中央集権体制をそのまま引き継ぎ、支配者となることができた。労働も、先住民を酷使することでまかない、支配者層は働く必要がなかった。

 

しかし北米には「乗っ取る」べき制度がない。先住民の数もまばらで、労働力を期待することはできなかった。そのため移民たちは自ら働き、土地を開拓した。彼らに「王様」はおらず、移民はそれぞれ自分たちの権利を持つことができた。

 

この段階で、南米には支配者層と被支配者層の分断が生じ、北米にはそれがないことがわかる。

 

やがて北米の移民たちは自分たちの権利のために戦って、イギリスからの独立を果たした。

 

メキシコも独立するが、社会の中に作られた支配/被支配の分断は解消されることがなかった。その影響は現在にまで及び、政治は特権を持つ人のために有利な政策をとりがちになる。

 

ノガレスにある格差はそうした歴史の積み重ねである。貧困の原因は、地理的条件でも人種の優劣でもないことがわかる。

 

本書では、北米のように広く権利が分散した状態(たくさんの人が自分の権利を持つ状態)を「包括的経済制度」と呼ぶ。包括的経済制度のもとでは、人々は自分の財産を増やすために働き、それが社会をさらに豊かにする。

 

対して、権利が一部の人に集中している状態「収奪的経済制度」とした。人々は一部の特権階級の人のために働き、財産を持つことが許されず、才能を伸ばすチャンスにも恵まれない。

 

アメリカ大陸だけではなく、世界を見渡しても、経済的な発展を遂げたのは包括的経済制度をとった地域が多い。国を豊かにするなら包括的経済制度。なんだけど、収奪的経済制度をとる国がなくならないのはなぜだろう。

 

アフリカ、コンゴでは大統領が収奪的経済制度をとった。国民は貧しいのに、大統領の邸宅は「ジャングルのベルサイユ」と呼ばれるほど豪華だったという。

 

国民に権利を与えず、酷使して生産させた富を一部の人たちだけのものにすれば、その人たちは豊かになる。包括的経済制度をとって権利を分け、財産を持つことも許したら、国民は創意工夫をして新しい産業を生み出すかもしれない。

 

社会は豊かになるかもしれないが、自分たちが独占していた産業は衰退するかもしれない。発展はときに、特権階級が持つ富や産業を脅かす存在になるのだ……。

 

「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」の感想

「包括的経済制度をとれば地域、国全体が豊かになるけど、豊かになれば国民は権利を主張し始めるし、新しい産業は自分たちを脅かすかもしれないから収奪的経済制度で自分たちだけ裕福であればいい」

 

まあ、世の中にはそういう人もいるんだろうけど、国単位でそれをやるか、というのが正直な感想。

 

私はケチなので、世の中にある才能は余すことなく使いたい。人類のために使っていただきたいと考えているのです。楽しい映画、おいしいお菓子、便利な機械、役立つ薬、作れる人に作ってほしいよ~。

 

しかし現実には新しい産業や才能は叩かれ、時に潰されてきた。世界の歴史の中からそうした例をつらつらつらつら、ほんとたくさん、エピソードとして拾って語ってくれるのがこの「国家はなぜ衰退するのか」でした。

 

歴史好き、特に世界史が好きな方にはおすすめ。

 

当然消化しきれてはいないですが、印象に残ったエピソードをいくつか簡単にご紹介しておきますね。おバカさんの記憶なので、間違っていたらごめんなさい。

 

・19世紀、アメリカで特許を取った人の多くは金持ちでも高学歴でもなかった。特許をもとに商売をするのも難しくなかった。銀行がたくさんあって、競争状態だったので顧客優位の貸し出しをした。一方でメキシコは銀行が寡占状態にあり、一般の人が資金を得ることは困難だった。

 

・ペストはヨーロッパに大きな影響をもたらした。イギリスでは人口が減り、労働者の価値が高まった。発言権も強くなった。東欧でも同様に労働人口は減ったが、君主の権力が強かったため、農民は対抗することができなかった。

 

ヴェネツィアでは一時、新規で商いに参入することができるシステムができた。しかしそれは既存の商人たちにはよく思われず、次第にルールが厳格になり、最終的には新規参入が難しくなった。

 

・アジアでは香辛料が取れたため、西洋人による土地の支配が行われた。ある地域では長老が命じて香辛料の木を切り倒し、支配をまぬがれた。

 

・19世紀アフリカ。ツワナ族には世襲ではなく、能力で首長を選ぶ風習があった。イギリスの南アフリカ会社がきたとき、首長たちはイギリス本国まで出かけて保護を訴えた。また、賢い彼らは金やダイヤモンドの採掘を禁止した。もし発見されれば支配が強化されることがわかっているからだ。

 

このとき「温存された」ダイヤモンドは、彼らがベチュアランドとして独立したとき、国を発展させる資金源となる。

 

共産主義ソ連では労働者のモチベーションがいまひとつ高まらなかった。そのためボーナスを出すことにしたが、計画経済のもとでは、計画以上の成果を出すことが難しく、しかしボーナスは得なくてはいけないため、かえって制度が歪んでしまった。

 

本書では20世紀の共産主義への期待と、失敗であった実態をしっかりと記述している。しかし、いわゆる反共が目的でないことは明らか。資本主義のアメリカでも市場の独占といった収奪的な状況が起きることに言及している。

 

まとめ

長かったけど面白かったです。世界史、特にヨーロッパ史に詳しかったらもっと面白かったかも。

 

これまで人類は絶対王政やら封建制やら共産主義やら民主主義やら、ほかにもきっといろいろな政治を模索してきて、今も「これ!」といったものを見つけられていない気がします。

 

多分これからしばらくは模索の時期が続きそう。

 

そんな中で包括的、収奪的経済制度という考え方を知れたことはなかなか楽しいことでした。賢い人が読んだらきっとためにもなるんだと思う。

 

そんなわけなのでよかったらご一読をどぞー。