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「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」を読んで・あらすじと感想

事実はなぜ人の意見を変えられないのか

 

事実を伝えても相手の考えを変えることはできなかった。そんな経験は、誰にも一度はあるのではないかと思います。

 

自分自身をふり返っても、「今すぐパズルゲームをやめて寝ないと、明日の朝がつらい」、この明らかな事実をもってしても、自分の行動を変えることは簡単ではありませんでした。

 

目次

 

「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」

 

この魅力的なタイトルに、思わず手に取った一冊です。

 

 

「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」を読んで

本書の最後に書かれた一文を引用してみます。

 

他人を変えようとする試みは、脳の働きを決定づける中心的要素と一致していなければならない。本書の目的はそれらの要素(事前の信念、感情、インセンティブ、主体性、好奇心、心の状態、他人)を明確にし、各要素が人にどのような影響を与えるのかを知ることだった。

 

ちょっと長いですね。要するに、「人に何かを伝えようとすると、その人の脳がどう受け取るかを考えないとダメなんだよね。なので脳の特性を知っておこうよ」といったところでいいんじゃないでしょうか。

 

ではその脳の特性とは。いくつかメモしておきたいと思います。

 

事前の信念

テルマはフランスで、ジェレミアはアメリカで育った。二人は子供をどちらの国で育てるべきか、論争している。

 

ジェレミアが「アメリカの方が生活費が安い」と言えば、テルマは「フランスの方が高収入」と返す。お互いに自分の考えを補強するデータを示し、相手が別のデータを出すと、それを覆すデータを探す。

 

自分が正しいという「信念」があると、話し合いはうまくいかない。

 

感情

では、相手の意見を変えるにはどうすればいいか。

 

ソ連との宇宙開発競争に勝つため、ケネディ大統領は予算と国民の協力を必要としていた。彼はフットボールの競技場に立ち、17分にもおよぶ演説を行って国民の支持を取り付けた。

 

人の脳には個体差があるが、だいたいのところは似通っている。同じ出来事に対すると、同じような反応を示す。

 

うれしい、悲しい、楽しい、怖い。こうした感情は特に伝わりやすく、相手の脳に強く働きかける。人の考えを変えたいときには、感情に訴えるのも大切なことである。

 

主体性

アメリカで納税に関する実験が行われた。一部の人たちには税金の使われ方を伝え、さらにどう使ってほしいか、意見を求めた。

 

その後、脱税の方法があるとして、利用したいか(脱税したいか)を訪ねると、意見を求められなかったグループの3人に2人がイエスと答えた。意見を求められたグループでは半分以下である。

 

人間は、自分で選びたい、状況をコントロールしたいと考えるものだ。だから人を動かしたいときは、権限を与えてその人が主体性を持てるようにするのがよい。

 

他人

私たちは他人から多くの影響を受ける。

 

狩猟採集民だった頃は、周りの人間の真似をしていればよかった。ほかの人間にとって安全な食べ物、寝床は、自分にとってもそうだからだ。

 

だけど現代はどうだろう。ネット上にはたくさんの情報があふれているが、それらは必ずしも正しいとは限らない。

 

たとえばアマゾンのレビュー。最初によい評価がつくと、次も、その次も高評価になることが多いという。結果、他人の意見に影響されたレビューが続くことになる。

 

人間は社会的学習を行う動物であるので、情報がどんな人たちに、どのように影響されているか考えた方がいいかもしれない。


まとめ

私は、事実を人に伝えるにはどうしたらいいかを知りたくて読んだけど、どっちかというと、「脳の特性を教えるから何かの役に立ててネ!」という感じの本だったように思います。

 

役に立つこともたくさんあるし、興味深いんだけど、その辺はちょっと肩透かしかな。でも面白かったです。

 

幸いアマゾンのレビューには辛口のものもいくつかあり、中に翻訳について述べている方がおられました。

 

いわく、機械翻訳のようで読みづらいとのこと。

 

確かに、コンマで区切った文章がつらつらと続く英文そのままのような日本語も多い。読みづらいっちゃ読みづらい。私はこういう翻訳に麻痺しているというか、悪い意味で慣れているのか、気づかなかったのですが、おっしゃる通りかと思います。

 

興味深い本なだけに、エッセンスをうまく取り出した図解版などができるとありがたいところです。